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奈良地方裁判所 昭和52年(ワ)80号 判決

主文

一、被告服部安男、同服部清司は、原告に対し、別紙第二物件目録記載の土地及び建物を明渡し、かつ、連帯して昭和四八年七月一日から右明渡済みに至るまで一か月金二〇万五、二二二円の割合による金員を支払え。

二、被告服部清司は原告に対し、別紙第二物件目録(5)新(ロ)記載の区分建物の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

三、被告吉川サツキ、同吉中美智代、同吉川伊津子は、原告に対し、別紙第二物件目録(5)新(イ)(ロ)記載の建物のうち別紙図面の赤線で囲む部分が原告の所有に属すること及び同被告らが右建物部分並びにその敷地を占有していないことを確認する。

四、訴訟費用は、被告らの負担とする。

五、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  主文第一ないし四項と同旨。

2  主文第一項につき仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  別紙第二物件目録記載の土地・建物(以下本件土地建物という)のうち、同目録(1)記載の土地は被告服部安男(以下安男という)の、同目録(2)ないし(4)の記載の土地及び(6)記載の建物は被告服部清司(以下清司という)の、同目録(5)新(イ)記載の建物は訴外高山シズコ(以下高山という)の所有であつたが、右物件に関し、原告と訴外服部興業株式会社(以下服部興業という)被告安男、被告清司、高山との間に、弁護士酒井圭次を右被告らの代理人として、大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第七二五一号所有権移転登記手続等請求事件において、昭和四五年一二月二五日別紙和解条項を含んだ訴訟上の和解(以下本件和解調書という)が成立した。

2  しかるに、服部興業は右和解条項二項による昭和四六年五月末日の金一〇〇万円、同年六月末日の金二〇〇万円の各支払いを履行しなかつたので、原告は同年七月一四日付同月一五日到達の内容証明郵便を以つて、本件土地建物を含む不動産を評価額金一億二、九五九万九、〇〇〇円で代物弁済として取得する旨の予約完結の意思表示を服部興業、被告安男、被告清司及び高山らになし、本件土地建物はすべて原告の所有となつた。

3  その後、被告安男からの申出があつて、昭和四六年七月三一日付で強制執行を一時猶予する旨の私法上の和解(以下本件示談契約という)が成立したが、同四七年一月末日に履行すべく約していた金二〇〇万円の支払を履行しなかつたため、右期限の利益も喪失し本件土地建物を明渡すべきととなつた。

4  原告は、昭和四七年六月三〇日本件土地建物につき明渡しの強制執行に着手し別紙第二物件目録5新(イ)(ロ)記載の建物のうち別紙図面の赤線で囲む部分の建物(以下本件建物部分という)を除く部分につき執行を完了し、右執行完了部分について警備保障会社に依頼して、その管理をしてきたところ、被告安男らは本件和解調書が、被告清司の法定代理人親権者母松枝の委任しない酒井弁護士によつて成立したなどの理由で、大阪地方裁判所に請求異議の訴えを提起し強制執行停止決定を得たとして昭和四八年七月一日以降右管理人を排除し、右執行完了部分に関する原告の占有を奪還している。なお本件建物部分については、被告安男は、訴外亡吉川金一の所有かつ占有にかゝるものと強硬に主張したゝめ右部分の執行は不能となつた。

5  しかしながら別紙第二物件目録(5)新(ロ)記載の建物はもともと同目録(5)―旧記載の建物の一部であつて、仮にこれにつき若干の増築があつたとしても増築部分と既存部分との間には障壁は全く存在せず、増築部分の独立性はないにもかゝわらず被告清司は右建物について奈良地方法務局昭和四四年九月一六日受付第二〇七三四〇号をもつて区分所有権の保存登記手続をしたうえ、同法務局同年一〇月七日受付第二二三五九号をもつて、亡吉川金一に所有権移転登記手続をなし、これにより被告安男は、本件建物部分が亡吉川金一の所有であるとした。

6  被告吉川サツキ、同吉中美智代、同吉川伊津子は亡吉川金一の相続人であるが、被告吉川サツキは別紙第二物件目録(5)新(ロ)記載の建物につき相続による所有権移転登記を経由し本件建物部分の区分所有権を主張しかつ右被告らは占有権を主張して原告の権利の実行を妨害している。

7  本件示談契約によれば、別紙第二物件目録(5)(6)記載の建物の昭和四八年七月一日以降の賃料相当額は一か月金二〇万五、二二二円である。

8  よつて、原告は、被告安男、同清司に対しては本件土地、建物の所有権に基づきその明渡しを求めるとともに不法行為による損害賠償として不法占有後である昭和四八年七月一日から右明渡済みまで連帯して一か月金二〇万五、二二二円の割合による賃料相当損害金の支払いを求め、被告吉川サツキ、同吉中美智代、同吉川伊津子に対しては、本件建物部分が原告の所有に属すること及びその敷地を右被告らが占有していないことの確認を求め、被告清司に対しては所有権に基づき別紙第二物件目録(5)新(ロ)記載の区分建物の所有権保存登記の抹消登記手続を求めるため本訴におよぶ。

二、請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実のうち、被告清司に関する和解成立の点を除きその余は認める。同被告の和解はその法定代理人親権者母服部松枝が何人に対しても訴訟委任をしたことがないのに、弁護士酒井圭次によりなされたが、無権代理により無効のものである。

2  同2の事実中、原告から主張のような意思表示のあつたことは認めるがその余は争う。

3  同3の事実は争う。

4  同4の事実中執行完了の点を除きその余は認める。

5  同5の事実中登記関係は認め、その余は争う。

6  同6の事実中、相続関係、登記関係は認め、その余は争う。

7  同7の事実は争う。

8  同8の主張は、争う。

三、被告清司の抗弁

本件和解調書に基づく被告清司の担保提供行為は、同人の父被告安男の債務に関するもので、いわゆる利益相反行為に該当する。しかるにこれにつき奈良家庭裁判所より選任された特別代理人高山シズコは、被告安男に対する連帯保証人であり、特別代理人の資格を缺くだけでなく、その選任申立ては前記無権代理人酒井弁護士によりなされたのであるから、右申立て、これに基づく特別代理人の選任および同特別代理人のなした追認は、すべて無効である。

四、抗弁に対する認否

被告清司の抗弁は否認。同被告の右抗弁は、本訴と当事者を共通とする奈良地方裁判所昭和四七年(ワ)第二二四号所有権移転登記、同四八年(ワ)第一二号所有権移転登記抹消登記等、同五一年(ワ)第二三八号所有権移転登記手続承諾請求事件の第一、二審判決により排斥された。

第三、証拠(省略)

和解条項

一 服部興業株式会社(以下会社という)は被告(西日本建設業保証株式会社)に対し、金二八六、六〇七、一九二円の求償債務およびこれに対する昭和四四年九月二八日から支払ずみまで日歩二銭二厘の割合による利息債務を負担していることを確認する。(和解調書第一条)

二 会社は前項の求償債務につきつぎのとおり分割弁済する。

1 昭和四六年五月末日 金一〇〇万円

2 同年六月末日 金二〇〇万円

3 同年七月末日 金三〇〇万円

4 同年八月末日 金四〇〇万円

5 同年九月から一二月まで毎月末日 金五〇〇万円宛

6 昭和四七年一月から九月まで毎月末日 金一〇〇〇万円宛

7 同年一〇月末日 金九、七六八、三六七円

8 昭和四八年三月末日 金七、〇〇五、三八三円

9 同年四月から昭和四九年二月まで毎月末日 金一三〇〇万円宛

10 昭和四九年三月末日 金六、八三三、四四二円

(同第七条)

三 原告(服部清司)は会社の右債務につき連帯保証の責を負う。(同第九条)

四 原告は被告に対し、第一項の求償債務の内金二〇〇〇万円の支払を担保するため、原告所有の別紙第一物件目録記載の建物(本件建物)につき代物弁済予約を締結する。(同第二条)

五 会社および原告が第二項の分割金の支払を二回以上遅滞したときは、期限の利益を失う。(同第一〇条)

六 前項の場合、被告は本件建物につき代物弁済予約完結の意思表示をして、その所有権を取得することができる。(同第一一条)

七 前項により本件建物が原告の所有に帰したときは、原告は被告に対し本件建物を明渡さなければならない。(同第一二条)

八 原告の親権者である服部安男と服部松枝は、原告の右担保提供行為につき、昭和四六年一月末日までに管轄家庭裁判所において、民法八二六条所定の手続をとる。(同第五条)

別紙

第一 物件目録

奈良市法蓮町一四一六番地一三、一四、九

家屋番号 一四一六番一三

鉄筋コンクリート造陸屋根三階建居宅

床面積 一階 一八二・一二平方米

二階 一二六・九四平方米

三階 二・一六平方米

第二 物件目録

(1) 奈良市法蓮町宇多門山壱四壱六番壱四

宅地 四〇壱・弐弐m〈sup〉2〈/sup〉

(2) 右同所 壱四壱六番九

山林 五参五・参参m〈sup〉2〈/sup〉

(3) 右同所 壱四壱六番壱参

山林 弐九七・五弐m〈sup〉2〈/sup〉

(4) 右同所 壱四壱六番壱六

山林 壱参・参弐m〈sup〉2〈/sup〉

(5)―(旧)奈良市法蓮町壱四壱六番地九

家屋番号 七四壱番

木造瓦葺平家建 居宅

床面積 参五・六九坪

(5)―(新)奈良市法蓮町壱四壱六番地壱四

壱棟の建物の表示

木造瓦葺平家建 居宅

床面積 壱参五・弐六m〈sup〉2〈/sup〉

区分建物の表示

(イ) 家屋番号 法蓮町壱四壱六番壱四の壱

木造瓦葺平家建 居宅

床面積 九四・弐四m〈sup〉2〈/sup〉

(ロ) 家屋番号 法蓮町壱四壱六番壱四の弐

木造瓦葺平家建 居宅

床面積 四〇・〇弐m〈sup〉2〈/sup〉

(6) 奈良市法蓮町壱四壱六番地壱参、壱四九地上

家屋番号 壱四壱六番壱参

鉄筋コンクリート造陸屋根参階建

壱階 壱八弐・壱弐m〈sup〉2〈/sup〉

弐階 壱弐六・九四m〈sup〉2〈/sup〉

参階 弐・壱六m〈sup〉2〈/sup〉

(以上の位置関係は、別紙図面表示のとおり)

別紙図面

〈省略〉

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